(1) 独英翻訳済み特許の和訳における付加サービス
英訳済みのドイツ語特許について、その英訳から和訳する場合、
誤訳などの疑問点が生じたときは、必ずオリジナルのドイツ語特許で確認します。
a) 化学的にありえない反応
英訳 (誤): .. rhodium chloride hydrate is converted with triphenylphosphine to ethanolic KOH.
和訳: 塩化ロジウム水和物をトリフェニルホスフィンを用いてエタノール性KOHに変換する。
明細書中に示された化学反応式を見ても、この表現が間違っていることは明らかです。
オリジナルのドイツ語特許明細書で確認すると、次のようになっていました。
オリジナルドイツ語: .. Rhodium-chlorid-Hydrat mit Triphenylphosphin in ethanolischer KOH umgesetzt wird.
正しい和訳: 塩化ロジウム水和物をトリフェニルホスフィンとエタノール性KOH中で反応させる。
前置詞 in の後は3格名詞ですが、これを4格名詞と誤認したと思われます。
in + 3格名詞は、場所・状況などを示し、in + 4格名詞は、方向・到達点などを示します。
b) 化合物名の誤訳
反応に用いる溶媒名の列挙で、次のような誤訳がありました。
他の誤訳も含めて修正を提案し、英訳の提出前に訂正することができました。
ドイツ語: ein Gemisch aus Butanolen (和訳: ブタノール類の混合物)
英訳 (誤) : a mixture of butanolene
英訳修正: a mixture of butanols
ドイツ語の Butanolen は、Butanol (ブタノール) の複数形 Butanole の3格です (前置詞 aus は3格支配)。
ここで複数形になっているのは、ブタノールには4種類の異性体があるためです。
ドイツ語の化合物名では、英語名の末尾 -e を除いた形になることがあるため (例: Pyridin / pyridine)、
Butanolen が複数3格であることに気づかず、末尾に -e を追加して英語名を作ったと思われます。